第1章 海賊王カラ松と奴隷市
「私はここから遥か遠い小さな国から参りました。こちらでそれは面白い市があるとの噂を聞き、はるばるやって来たのです」
するとその貴族はふんぞり返った。
「はっはっは。あなたは運がいい。この市は我々貴族のたしなみとも言うべきものですからな。よーく見て土産話になさるとよろしいでしょう」
「ほう、それはそれは。ますます楽しみですな」
心で中指を立てるカラ松。
そうこうするうちに貴族たちがどんどんやってきて、路地裏は隙間がないほどの人だかりになった。そこへガラガラと音がして、檻が運ばれてきた。中には数人の娘たちが入っていて、誰もが震えていた。
「さあさあ、皆様。お待たせいたしました。これより奴隷市を始めます」
市は静かに始まった。奴隷商人に大金を払って娘を買う貴族。カラ松はうっかり後ろに下がってしまっていたため、なかなか近づくことができないでいた。だが徐々に人が減ってきてようやく前に出ることが出来たが、残っているのは服はボロボロで体は傷だらけの汚ならしい娘だけだった。
「おや。残念でしたね、お客様。ましな奴隷は全部売れてしまいました」
「それをくれ」
カラ松が言うと商人は慌てた。
「いいんですかい?こんな汚いのを」
「それがいいんだ」
すると商人は何か誤解したらしかった。
「ああ、そういうお遊びをなさるんですね?わかりました。ならおまけしてこのくらいで」
商人が指で値段を表示する。娘の命にしては安すぎる値段だった。人の命を何だと思っているのか。そう怒鳴りたいのを必死に抑え、腰の袋を一つ渡す。
「釣りはいらん」
ずっしりと重い袋の中身を見た商人は、腰を抜かさんばかりに驚いた。
「ひぇええ!いいんですか?!ではどうぞ、お持ち帰り下さい」
そう言って娘を檻から出して早々に去っていった。
残された娘は下を向いてガタガタと震えている。よほど怖い目にあったのだろうか、手を差し伸べるだけでもヒュッと喉が鳴る。
「そんなに恐れなくていい。君はもう自由だ」
すると彼女は驚いた顔をしてカラ松を見た。だがそれも一瞬のことで、すぐ下を向いて首を振る。
「今自由になっても、私には帰る場所もないしすぐまた捕まります」
それは美しい声だった。透き通ったソプラノの声。もっと聞きたいと思ってしまうほどだ。
「なら、俺の船に乗るか?」
言って自分で驚くカラ松。