第1章 海賊王カラ松と奴隷市
腰にいくつか下げていた袋の一つを高々と掲げる。
「お前ら全員、俺のおごりだ!」
ドン!とカウンターに置いて袋の口を開けば、大量の金貨が入っていた。
「「おおおおおお!」」
「あ、あんた貴族か?!」
「いいや、貴族じゃないぜ。ま、ちょいとした男さ。そんなことより飲んだ、飲んだ!」
その場にいた男たちとカラ松は、浴びるように酒を飲んだ。やがて男たちは酔いつぶれ、そのまま眠りについた。
「おやじ、こいつらが起きたら適当に帰してやってくれ」
「ああ、ありがとうな。おかげで今日は店じまいできる」
「はっはっは。それはよかった。俺は一度この場所に行ってみようと思う。出来れば奴隷にされてる娘たちを解放したい。危険は承知の上だ」
「あんた、一体…?」
「俺かい?ただの船乗りの船長さ」
そう言い残して去って行く後ろ姿を店主は不思議な気持ちで見送った。
「ああいう男が貴族なら、ここももっとましな街になったろうに…」
書かれた地図を頼りに路地裏へ向かうカラ松。と、若い兵隊と出会い頭にぶつかった。
「どちらへ行かれるんですか?見慣れない方ですが」
「この辺りで市が開かれると聞いたんだが」
そう言って袋から金貨を3枚取り出し、兵隊に握らせる。すると兵隊はそれをポケットにしまいながら、
「奴隷市はあと2時間後です」
そう言って去って行った。
「はん。どこも軍は金を見せれば尻尾を振る。下衆な奴らだ」
唾を地面に吐いて毒づく。2時間の間どうしたものかと考えているうちに、身なりのいい男がちらほらと現れ始めた。
「今日の奴隷はどんな娘ですかな」
「はっはっは。あれを娘と言っては貴族の娘に嫌われますぞ?」
「おお、それはいけない。しかしあれをどう表現しますかな?」
「そうですなぁ。ブタ、というのはいかがですかな?」
「ほほう、ブタですか」
「ええ。鞭を入れればブタのようにキーキー鳴きますからな」
「おおー、なるほど!」
貴族たちの下衆な会話が聞こえ、カラ松ははらわたが煮えくり返るような気持ちだった。
「死ねばいいのにな…」
ついボソッと声に出してしまう。その言葉を聞いたのかどうかは分からないが、一人の貴族がカラ松を覗き見た。
「おや、見慣れない顔ですな。どちらからお越しで?」
下卑た顔を殴ってやりたかったが何とか気持ちを押さえる。