第5章 ハジメ国へ
「いって!あにすんだよ、クソ松が!」
頭を擦りながら文句を言うおそ松に、チョロ松とトド松が突っ込みを入れた。
「あれはおそ松兄さんが悪い」
「そうだよ!せっかくカラ松兄さんがうまくやり過ごそうとしてくれたのに!」
「いいじゃんか!結局はやり過ごせたんだしさー!」
「それは○○のおかげだろう?○○がいなかったらやり合うしかなかった。海軍の船の数を見たか?俺たちでは到底勝ち目のない数だったぞ」
「うるっさいなー。終わったことだろ?!」
おそ松はそっぽを向いてさっさと自分の作業をし始めた。その態度に文句を言おうとしたトド松を、一松が止めた。
「もういいって。おそ松兄さんもちゃんと分かってるから」
「でも…!」
「いいから」
頭をポンポンとされて、それ以上何も言えなかったトド松だったが、作業をするおそ松の肩がわずかに震えているのを見て、ただの強がりだったことを悟った。
その夜。カラ松は隣のベッドで寝ているはずの○○がいないことに気付き、部屋を出た。
「おー…」
三日月の美しさに思わず声が出る。その月明かりの下、○○はたたずんでいた。月の光を受けているせいか、光って見える。
「夜風は体に毒だぜ」
ピクッと反応してカラ松を見る○○の目は、涙で濡れていた。
「泣いていたのか」
近付こうとすると○○が口を開いた。
「私、どうしたらいいの?」
「ん?」
「ハジメ国で王権を取り戻したら、カラ松とは別れることになるの?…私は別れたくなんかない…。カラ松を愛してるもの…!」
カラ松は○○の肩を抱いた。その顔は寂しげにも見えるし怒っているようにも見える。
「あの時は俺も平静を装っていたが、やはり惚れた女を手放したくはない。とはいえ俺を育ててくれたシャーザーとの約束もある。だがお前は王女だ。…俺はどうすればいい?」
○○もカラ松の背中に手を回してしがみついた。
「よかった…。悲しがってるのは私だけじゃなかったのね」
「当たり前だろう?一緒にいて欲しいと思った女は、お前が初めてなんだ」
「あ。明日みんなに相談してみない?いい案を出してくれるかも」
「……そうだな、そうするか。さあ、そろそろ寝よう。…その…、一緒のベッドで寝ないか?」