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短編集【果物籠】

第3章 そろえましょ【夾】


目を潤ませる私に紅葉が、しょうがないなぁみたいに優しく微笑むと春に何かを手渡してから目の前にしゃがんで両手を広げる。


「おいでひまり。ギューってしたげる」


頭にハテナを浮かべる私に何を言うかと思えば…。

不覚にも男らしさを増した紅葉にドキッとしてしまったが丁重にお断りする。


「いや、いいです。大丈夫です」

「もー。イジはんなくていいから」


ふわっと包み込むように抱き締められたかと思うと、今度は子どもを宥めるように頭をポンポンとされ、私の時が一瞬止まった。


「こういう時は思いっきり泣くのがイチバンなんだよ。ツラいよねひまり」


弱りきった私はその言葉をキッカケに涙が溢れて止まらなくなった。
「うぅー」と声を出す私の背中を優しく撫でるもんだから、もうこの涙は止められそうに無い。


「この1年…ずっと、ずっ…と待ってたんだよっ…浮気するくら、いなら、最初から…っ、迎えに来るなんか…言わなきゃ、いい、じゃんかぁ…っ」

「うん、そーだね」

「うぅー…夾のアホォー…っ。今度の、お揃いのも…迎えに来て…くれた時に、一緒に、買い、に行こうって…おも、思ってたのに…っ」

「よしよし。そーだよねー。キョーはヒドイよねー」


ギューっとしながらポンポンと頭を撫でてくれる紅葉に今は本当に救われる。

夾の本音を聞くのが怖くて避けてきたけど、帰ったらちゃんと話そう。
電話はできなくてもメッセージで思いをぶつけよう。

それでダメならもう仕方ない。

2人が吐き出させてくれたから何か勇気が出てきた。

うん。どうにもならないことは仕方ない。


紅葉に思いきり泣かせてもらえた私は凄くスッキリした気持ちになれて。

そのまま夕方までゲラゲラ笑いながら、ちょっぴり季節外れのお花見を楽しんだ。
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