第2章 腹黒王子様【由希】
「私…馬鹿だなぁ」
「今更?ずっと俺は分かってたけど」
「ほんと遠慮なくグサグサくるねー」
「俺だったらひまりにそんな顔させないからね」
「…でたでた。由希のナチュラルキザ発言」
「本気だからね?いい加減はぐらかすのやめたら?」
ひまりの頬をつねる由希は大層不機嫌な顔をしていて、よーく見れば薄く青筋まで立てている。
「本気度が感じられない。チャラ発言にしか思えない」
「アイツの言葉は信じたのに?」
顎で中庭の彼を指す由希に「いや、それは…」と言葉を濁した。
別れた次の日。
選択授業から教室に戻る時に、由希と偶然聞いてしまった元彼の言葉。
「キスまではさせてくれたのに、ヤらせてくんなかったんだよな。めんどくせーからすぐヤらせてくれそうな女と付き合うことにした」
友達とゲラゲラ笑いながら話す彼に、殴りかかりそうな勢いで教室に入ろうとする由希を気付けば止めていた。
腹が立った。私も殴りたかった。
最低なヤツだと思った。
分かっているのに、1年間想い続けた気持ちは簡単には消えてくれなくて。
「やめて由希。虚しくなるだけだから」
それでも心に残る"好き"な気持ちはとんでもなく厄介だなものだ。
沢山の生徒が居ても彼の姿はすぐに見つけてしまえる。
気付けば目で追っていて、彼の話し声が一番大きく耳に届いて、こうして彼女と居る彼から目が離せない。
彼が私を好きだと言った言葉をまだ何処かで信じてるから。
「惚れたもん負けってやつじゃない?それは」
「やっぱり…ひまりは馬鹿だよ」
腕を組んで大きなため息を吐いた由希は、とうとう呆れてしまったのかゆっくりとひまりから足音を遠くさせていった。
ひまりの視線の先にいた彼と彼女もベンチから離れて笑顔で手を振るとそれぞれ別の方向へと歩き始めている。
彼の姿が見えなくなり、由希も離れて、ようやくここで負の感情が溢れて止まらなくなった。
告白した日に戻れば、何か変えられるだろうか。
幸せな時間を続けられただろうか。
いや、分かってる。
体が目的だった彼相手に、幸せは長くは続かなかった。
どう足掻いたって、結果は一緒だってことを。
それでも…
「それでも…一緒に…いたかった…」
溢れ出す涙を、俯いて声を殺して隠した。