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短編集【果物籠】

第2章 腹黒王子様【由希】


私の告白を聞いた彼は驚いたような表情をした後、私が好きなくしゃっとした笑顔で「俺もずっと好きだったんだ。小山さんのこと」って言って抱きしめてくれて。

人生で初めての彼氏が出来た。

手を繋いだのも、ハグをしたのも、キスをしたのも彼が初めてだった。

「ずっと一緒に居ような。お前がいればもう何もいらねーわ」なんて甘い言葉が嬉しくて幸せで、この幸せを崩したくなくて正直猫を被りまくっていた。

興味が無くても彼が好きなアーティストを好きだと言ったり。
前髪なんて作りたくなかったのに、彼が前髪ある女の子可愛いよねって一言ですぐに前髪作ったり。
彼と違う意見を持っていても、彼に合わせて自分の意見を言わなかったり。

彼と居る時は違う自分を演じていた。

ずっと好きだった彼に嫌われたく無くて、もっと好きになって欲しくて。

演じ続けてた。

でも、日に日に彼の気持ちが冷めていってるのが目に見えてきて1週間前に振られた。


「何か思ってたのと違うかった。ごめんね」なーんて軽い感じの言葉で私の初恋は終了した。


「え…やだよ…」


初めてのワガママを呟いた私に、彼は分かりやすいほどの嫌悪感を滲ませた。
最後の最後まで猫を被ってしまった私は「なんて…嘘だよ!そうだよね!こっちこそ何かゴメンね!今までありがとう!」と笑った。

振られてもなお、彼の前では"物分かりの良い女の子"を演じた。

泣いて彼を困らせないように。彼の重荷にならないように。嫌われないように。

私の言葉にホッとしたような顔をした彼は「じゃあまた明日なー」といつも通りにくしゃっとした笑顔で手を振って、私もいつも通りに笑顔で手を振った。

涙が溢れないように、彼への想いを下げていた手で力の限り握り潰した。

大丈夫。泣くな。と心の中で呟きながら。



「まぁ…確かにカラッポだったね。私」

「うん。カラッポだったね。別人みたいだった」

「…私がいれば何もいらない。なんて言ってた癖になぁ…」


本当は責めたかった。
何が駄目なの?ずっと一緒にいようって言ったくせに。
貴方が好きって言った私と、たった1ヶ月しか経ってない私は何が違うの?

言いたかった。言えなかった。
言えばもしかしたら…何か変わってたのだろうか。

後悔した所で後の祭り。
視線の先の彼は、もう既に新しい彼女に夢中になっている。
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