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短編集【果物籠】

第2章 腹黒王子様【由希】




あぁ。こんなにもツラいものだったのか。


ひまりは二階の渡り廊下から中庭を眺め、胸の痛みに顔を歪ませていた。
彼女の視線の先には仲良さげに手なんか繋いじゃってベンチでイチャつく男女。

つい1週間前まではあの女の子の場所は私のものだった。

傷付くと分かっていても、こうして見続けてしまうのはきっとまだ彼を忘れられないから。


「わざわざ傷付かなくてもいいんじゃないか?」

「まあ、そうなんだけどね」


ひまりの横で怪訝な顔をしているのは、学園の王子様と言われている草摩由希。


「行こうひまり」

「うーん。…もうちょっとここにいる」


寒さでかじかむ手にハァーと息をかけると、隣からはそれとは違う深いため息が空気を白くさせて消えた。


「そういうひまりは好きじゃないんだけど?」

「そうだね。私も好きじゃない」


自嘲とも取れる乾いた笑いをするひまりに、由希は眉を潜めはしたものの彼女の隣から離れることはなかった。
その表情は哀れんでいるのか、はたまた機嫌を損ねたのか。

言葉を発しようとしない彼の心情は、ひまりには読み取ることは出来ない。


「由希こそ。戻ったら?寒いの好きじゃないでしょ」

「そうだね。好きじゃないよ」


そう言って爽やかに笑う表情と、先程の自身の返答を真似たような言葉に、あぁ後者の方か。とひまりは察した。

由希は見た目に反して腹黒い。

由希のことなら色々と分かるのに、どうして彼のことは理解出来なかったんだろうか。


「そんなに駄目だったかなぁ。私」

「…アイツと居る時のひまりはカラッポだったからね」

「失恋で傷付いてる女の子に容赦ないねー由希は」


グサッと突き刺さる言葉を平気で口にする由希の表情は、涼しいものだった。


まぁ、確かに…カラッポだったと思う。


高校2年生で彼と同じクラスになり、ほぼ一目惚れだった。

1年生の頃から仲が良かった由希に相談に乗ってもらいまくってたけど、当初は彼に気持ちを伝えるつもりは無かった。

でも人懐っこい笑顔と誰に対しても対等に接する姿に、好きの気持ちはどんどん大きくなって想いを伝えたくなって。

1ヶ月前に1年以上温めていた想いをぶつけた。
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