第2章 ゴア王国
「女1人でこの町に...?」
"この町"は、ニーナが最初にエースと出会った場所であるここ"端町"のことを指している。
確かにここは悪臭が漂い、夜はチンピラが騒ぎ回っている治安の悪い場所だと聞く。そんな所に、まだ若い少女が1人で暮らしてると思えば可笑しい話だ。
『違う違う、私はここよりずっと遠い場所から来たの。ここに来たのは昨日で初めてよ。それに貴方も見たでしょう?私こう見えて結構強いんだから。』
「そうか...そういやそうだったな。」
ニーナはうんうん、と首を大きく縦に振ると、長く濃かった1日を思い返すように空を見上げた。
『せっかく仲良くなったばかりなのになぁ。会ったばかりでここまで仲良くなったのは君が初めてだよ。』
そう言ってエースに笑いかけると、エースは聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、ボソッと呟いた。
「...エース。」
『え?』
「エース...そう呼べ。」
それは、また一歩、今度はエースの方から近づいてきてくれたようで、ニーナは幸福感に胸を締め付けられた。
『エース...』
立ち上がり、満面の笑みで自分の名を口にする彼女を見上げる。
そんな彼女の後ろで沈みかけていく夕日は、その柔らかな長い髪を照らし、より一層彼女を輝かせていた。
『いい名前。あなたにぴったりね。』
「っ...」
(くそっ、またか!!なんでこいつが笑う度に胸が苦しくなるんだっ...)
どの言葉を当てはめても、この感情を表す言葉は見つからない。
初めて抱く行き場の無い想いに、エースは困惑していた。