第2章 ゴア王国
なかなか喋り出さずに俯くその姿を見て、少し踏み込み過ぎたと思ったニーナは、
『やっぱ今の無し!』
と、乾いた空気に扇を一振りしたように言った。
突然のことに驚きを隠せないでいると、
更に続けて、
今度はとびきりの笑顔で女は言う。
『ねぇ、今から美味しいもの食べに行かない?』
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『わぁ、すごい...!』
今日はどうやら、現国王の生誕祭らしく、国全体が活気に満ち溢れていた。
ニーナとエースが居る中心街では、屋台や人でごった返しており、あちこちから聞こえてくる音楽や人々の笑い声で騒がしいほど賑やかだった。
隣に居るエースも、先程までとは打って変わって眼がキラキラと輝いていた。
良かった...上手く気分転換になったみたい。
あの時のおばあさんに感謝しなくちゃ...
”あの時のおばあさん”とは、実際には、ニーナたちが泊まっている宿の女将のことである。
時を少し遡り、8時間前ーー
エースが寝静まった後、御手洗に行こうと廊下に出たニーナは、先程部屋を案内してくれた女将にばったりと会う。
「いや〜、突然真夜中に血だらけの男の子を抱えて現れたもんだから、何事かと思ったよ。」
話を聞くと、どうやら店の戸締りをしようとしていた所にニーナたちがやってきたのだと言う。
そして、寝付こうにもエースの事が気になって、部屋の前で様子を伺っていたそうだ。
その後、廊下の隅に置かれていたソファーに二人で腰かけ、他愛ない話をしている中で、建国祭についての話を聞いたのだ。
エースの安否を伝えたら、ほっと胸を撫で下ろして、良かったとまで言ってくれた...とても優しいおばあさんだったな...
そう感慨深くなっていると、スカートの裾を誰かが軽く引っ張った。はっとして下を向くと、不思議そうな顔でこちらを見るエースが居た。
「おい、行かないのか?」
『ごめんごめん、じゃあ行こっか。』
そう言うと、エースの小さな手を握る。
すると、エースの肩がビクッとふるえた。