第17章 月がとっても青いから
杏寿郎も正座になおると、咲と正面から向かい合う。
スッと床につかれた咲の細い指。
小さな体が、白く滑らかな肌が、青い月明かりに照らし出されてとても美しかった。
「杏寿郎さんの」
咲が話し始め、杏寿郎は思わずゴクンと喉を鳴らす。
「お気持ちとても嬉しく、不束者ですがどうぞよろしくお願いいたします」
深々と下げられた小さな頭を見下ろしながら、杏寿郎はすぐには反応することが出来なかった。
(…なん、だ?よもや、よもや、これは……)
数秒の間を置いて、腹の底から溶岩のような熱い感動がつき上がってきて、全身を震わせるのを感じた。
「咲!!」
ガシッ、と杏寿郎は咲の小さな肩を両手で掴んで顔を上げさせる。
「ありがとう!!ありがとう!!俺は今、人生で一番嬉しいぞ!!」
そのまま抱きすくめられた咲も、次第にブルブルと体を震わせ始め、ついには笑顔で泣き出した。
「はい、私も…今、人生で一番幸せです…!」
「うむ!!だがな、この幸せはこれからもっともっと増していくだろう!いや、必ずそうしてみせる!!」
そう言うやいなや、杏寿郎は咲の膝の裏に腕を差し入れると、軽々とその体を抱え上げた。
「えっ!?」
ピョン、と庭に裸足のまま飛び降りた杏寿郎に、思わずその首にしがみついた咲が驚きの声をあげる。
「わーっしょい!わーっしょい!!」
「きょ、杏寿郎さんっ」
今にも天高く放り投げてしまいそうな勢いで、咲のことを担ぎ上げている杏寿郎の顔には、子どものような無邪気な笑顔が浮かんでいた。