第10章 産屋敷財閥に任せなさい
炭治郎は、嬉しそうに話している杏寿郎と咲の姿を見つめる。
杏寿郎からは、太陽のような温かで優しい匂いと幸福の匂いがする。
(煉獄さんは、本当に咲のことが好きなんだなぁ)
普段は見ることのないような杏寿郎の溶けたような笑顔を見て、炭治郎の胸は温かくなる。
(咲は…煉獄さんのことをどう思っているのかな?)
炭治郎は、杏寿郎同様にニコニコと笑いながら話している咲の横顔をチラリと見た。
彼女からも杏寿郎と同じように幸せそうな匂いがしてくる。
ただ、それが恋愛的な意味を含んでいるのか、それともただ単に杏寿郎を兄のように慕っているものなのかまでは分からなかった。
(でも、あの表情を見れば…咲も煉獄さんのことを慕っているのは間違いないだろうな)
それが、杏寿郎が咲に対して抱いているものと同じ好意であれば良いな、と願わずにはいられない炭治郎なのであった。
杏寿郎は帰り道の途中で菓子屋に立ち寄り、「蝶屋敷の子達の土産にしよう」と言ってたくさんの菓子を買ってくれた。
芋けんぴの大袋を手に取って、「うむ!やはり芋けんぴが良いだろう!」と大きな声で言う杏寿郎に、
「ふふっ、杏寿郎さんは本当にそれがお好きですね」
と、隣に立った咲が微笑む。
「むむ…」と少し照れたような表情を見せて、頬をポリポリと掻いている姿に、炭治郎までもが何だか心がむず痒くなってくるのだった。
(わああああぁぁ!!純粋だっ!!煉獄さん、純粋だ!!煉獄さんってこんな顔もするんだぁ!)
まるで初恋同士の少年少女のような初々しい甘酸っぱさと、長年連れ添った老夫婦のような穏やかさを醸し出している二人の横で、炭治郎は心の中で一人悶え転げたのだった。