第10章 産屋敷財閥に任せなさい
咲が、長兄がよく自分のことをおぶってくれたことや、次兄がいつもおやつを分けてくれたことなどを楽しそうに話しているのを、炭治郎は妹の禰豆子や花子と話している時のような気持ちで見つめていた。
咲はその端正な顔立ちから、真面目な顔をしていると思わずたじろいでしまうような凛とした大人っぽさを感じさせる女の子だと、炭治郎は初めて出会った時から感じていた。
伊之助から「お前は山では生きていけねぇ」と言われた時も、とても悔しかっただろうに、その感情をまるで大きな布で覆うようにして、決して表面には出すまいと冷静に対処していた。
その落ち着きぶりは、とても十四歳の少女とは思えないほどのものであった。
その後も、給与の受け渡しや荷物の配達などで定期的に顔を合わせるようになったが、その時の対応も至極落ち着いたもので、仕事にも無駄がなく、万事手回しが良い。
冷静沈着で、任務中はいつもキリッとして、こちらの気も引き締まるような表情をしている。
だが任務を離れると、その端正で大人びた顔には、驚くほどあどけない笑顔が浮かぶのだ。
それを、今日一緒に出かけてみて炭治郎は発見した。
その可愛らしい姿に、炭治郎は激しく長男心を刺激されるのだった。
そして、そう感じているのはきっと自分だけではないのだろう、と炭治郎は思う。
今目の前でニコニコと嬉しそうに話している杏寿郎も、先ほど蝶屋敷で咲の頭を撫でたしのぶも、着物を貸してくれたカナヲも、皆この少女の虜になっている。
単純に見た目が可愛らしいから、というだけではない。
その仕草の一つ一つが、話し方が、性格が、とにかく咲を構成する全てのものが愛おしく感じさせるのだ。
彼女は鬼を引きつけてしまう希少な稀血である。
だが、ひきつけてしまうのは鬼だけではないような気がするのだった。