第1章 ー東堂尽八の場合ー
「尽八ってさ、高校時代からこんなことしてたの?」
「こんなこととは何だ?髪の毛一本まで愛しいと思うのは玲香だけだぞ」
「っ…もう、耳元で話すの、だめ…」
「ダメじゃないだろう?可愛いな玲香は…」
尽八め、私の反応楽しんでるなこれ…!
耳元で喋られるとゾクゾクしてしまって体がビクッと震えてしまう。ハッキリとは見えないものの、尽八がニヤニヤしているのが手に取るようにわかる。
「ッ、ひゃ、あっ!」
「フハッ、本当に玲香は耳が弱いな?」
「もっ…いじわ、る…!」
何とかしてこの腕の中から逃げられないかなと思考を巡らせるものの、それを阻止するかのようにふぅっと息を吹きかけたり、耳を愛撫し始めるから忽ち力が入らなくなって辞めさせようと掴んだ腕はただ添えているだけになる。
「あぁ…その顔、大好きだ。玲香の大きな瞳が潤んでいて頬が綺麗に染まっている…オレにしか見せない顔、だな?」
「はぁッ…もう、珈琲冷めちゃったじゃん」
「珈琲など、また淹れ直せば良いだろう」
やっと満足したのか、尽八はまた私を腕の中に閉じ込めるよう抱き締め直した。
しかし、心臓の音が煩い。
尽八からのスキンシップには慣れてる筈なのに既に息があがり始めてる。今日が特別な日だから?私が「東堂」になって初めて迎える夜…
あ、ダメだ。変に意識したら途端に恥ずかしくなってきた…
一旦落ち着こうと思って珈琲に手を伸ばす…が、その手を尽八に掠め取られる。
そしてそのまま指先に唇が押し当てられて。
まるで王子様が求愛しているようで、また心臓の音が煩くなる。
「そんなに珈琲が飲みたいのか…?」
そう言った尽八の口元が緩んだのがわかり、慌てて大丈夫だと言おうとしたけれど、頬に尽八の長い指が滑らされると動けなくて。
私のマグカップに口をつけると、まるでスローモーションのようにゆっくりと近づいて来て唇が重なる。
そのまま頬にあった手が後頭部に回り、しっかりと固定されてしまえば顔を動かすことも出来ない。
薄っすらと唇を開くと、流し込まれるほろ苦い珈琲。それをコクンと飲み干せば、それが合図となって尽八のキスが深くなる。
「は、あっ…ん!」
尽八のキスは蕩けそうなほど甘くて、優しい。溢れてくる水音と共に私までもが溶けてしまいそうになる。