第1章 ー東堂尽八の場合ー
「はぁー…つっかれたあぁ!」
「意外と長い1日だったな。珈琲でも飲むか?」
「え、尽八が淹れてくれるの?飲む飲む!」
コポコポと珈琲を淹れている音に耳を傾けると、何だか心地良くて眠たくなってくる。
「しかし良かったのか?そのまま何処かへ泊まらなくて」
「良いよ、そりゃ確かにこんな日くらい贅沢に高級ホテルとかに泊まってみたいなって思うけど」
「だったら」
「いいの。そういうとこに泊まるよりは尽八のマンションの方が気が休まるから」
「そうか。玲香がそれでいいならオレは構わんが」
出来たぞ、と座っているソファの前にあるローテーブルに2つのマグカップが置かれて、ありがと、と言えば微笑みながら当然のように私の隣に座った彼氏、東堂尽八。
いや、もう旦那さんになったんだった。
左手の薬指には、今日誓いを立ててお互いに嵌めた結婚指輪がキラキラと輝いている。
するりと尽八の手が腰に回ってきてそっと抱き寄せられた。
「尽八、それじゃ珈琲飲めない」
「今日は朝からずっと抱き締められなかったからな…玲香の匂いと体温を感じないと死んでしまいそうだ」
「何それ変態じゃん」
「何とでも言え。離す気はさらさらないぞ」
こうなった尽八は、本当に満足するまで離してくれない。私の髪に顔を埋めたり、肩に額を乗せてみたり、もっと引き寄せられれば尽八の胸に私の頭を押し付けてみたり。
大人しくされるがままジッとしているけれど、包み込まれるような尽八の匂いに私も安心する。
流石学生時代にロードバイク乗ってただけあって未だに筋肉凄いんだよね。ぱっと見じゃわからないんだけど、抱き締められるとよくわかる。
「そういえば今日さ、高校の部活の人たちと話してた尽八初めて見た顔してた。何だろう…子どもみたいで新鮮だった」
「アイツらとは高校3年間、寮での生活だったからな…特別仲が良い。何だ、嫉妬してるのか?」
「煩い。私の知らない尽八がそこに居て悔しかっただけ」
「ワッハッハ。素直に嫉妬したと言えば良いだろう?」
そう言って私の髪をひと束すくうと、長い睫毛を伏せてキスをする。その姿が余りにも綺麗で思わず見惚れてしまった。