第3章 ー巻島裕介の場合ー
そっと裕介の腕が私の背中に回ってくると安心する。
「……7年」
「ん?」
「裕介が突然渡英してから…7年だよ」
「あぁ…そのくらい経つッショ」
「手紙送ったって返事はたまにしか来ないし!電話だって中々出来ないし!会えるなんて言ったら年に数回!」
今までどんだけ寂しい思いしてきたと思ってんの、という気持ちをぶつけてみれば裕介はただ頭を撫でてくれるだけで。
「やっと…やっと一緒に居られるんだね?」
「その為に、オレもやれること必死になってやったッショ」
頭を撫でていた手がスルリと頬に滑らされ、いつの間にか伝っていた涙をそっと拭って。
「3年ッショ」
「…ん?」
「お前のこと早く迎えに行きたくて…前倒ししたんだよ、日本支社」
「え、そうなの!?」
「当初、兄貴の予定では10年だったんショ。オレを叩き上げて責任者に育て上げる期間」
思いもよらない裕介からの言葉に目を見開く。
私を迎えに日本へ帰る為に…3年も早く…?
裕介が中々手紙を返してこないのも、電話に出なかったのも、日本に帰って来なかったのも…みんなその為…?
「…もう!バカバカ!裕介ってホント…!私が待っていられなかったらどうするつもりだったの!」
「んァ?玲香なら待っててくれてるってわかってたッショ」
柔らかく微笑む裕介に思わず見惚れる。
全く…この男には敵わない。
私がちゃんと裕介のことを待っているのを見越しての行動だったんだ…
「そ、それでも何か一言でもあったでしょ!」
「言ったらお前、責任感じるショ。オレが多少無理して必死になってること…言えるワケねーだろ?本当にいつ帰国出来るかわかんねェのに、待ってろなんて」
裕介の真剣な表情に何も言い返せなくなる。
私が裕介に縛られることがないようにしてくれていたことがわかると、途端に愛しさでいっぱいになって目の前の裕介を思い切り抱き締めた。
「裕介、迎えに来てくれてありがと」
「当然だろォ?お前に告白したあの日から…必ずオレのモンにするって決めてたッショ」
裕介の長い指が私の髪に埋められて、優しく梳くように動かされれば至近距離で裕介と視線が絡み合って恥ずかしくなる。
暫く見つめ合うと自然とお互い顔を近付け、唇が重なる。
触れ合うだけのそれは、今までで一番幸せだと感じた。