第3章 響く音はひろがりとどく
瞳を開けた彼女と視線が重なる。
僕に支えられながら気がついた彼女は、ぼんやりとした瞳から、驚きを滲ませたものへと変わっていく。
「ど………して…」
視線を逸らして、その戸惑いの声に僕は答えた。
「鈴の音が聞こえたんだ。
僕は一度千春ちゃんに会っているから、それでわかった。御守りだって言っていたからね。」
「………石田さ…」
「いまは話すより、目の前の敵に集中するんだ。」
すとん、と地に足をつけた彼女は僕の言葉にゆっくりと前を向いた。
「私、っ気を失って…いたんですね…」
「ほんの僅かな間だけどね。」
苦しそうな息の合間に溢した彼女は、ゆらりと無手の構をした。
牙が刺さったままの肩から流れ出る血は、緩やかだが止まってはいない。
その後ろ姿に僕は声を掛ける。
「………そんな身体で、やれるのかい」
「まだ、だいじょぶです…ただっ………あの虚は……退治させてくだ……い。」
「………君の好きな様にするといい。僕も好きにやらせてもらうよ。」
くるりと首だけ後ろを向いた彼女は、申し訳なさそうな顔をして呟いた。
「…………助かりっます」
その顔に僕は、目をそらしてしまう。
心がざわりとしたから。
ドン‼︎と激しい音とともに、彼女は虚へと向かっていった。
彼女のいた場所には、小さな血溜まりが出来ていて、僕はぐっと拳を握った。