第3章 響く音はひろがりとどく
ウチから少し離れた場所に広い空地がある。
そこに虚の霊圧を感じて、俺は急いでいる。
近くには石津の霊圧もあるから、虚退治ってところだろう。
石田と分かれてから、鳴り響いた代行証に
死神化して場所を目指していた。
妙なのは、石津の霊圧が波立っている様に感じること。
気になって、瞬歩で一気に駆け抜ける。
ダン!と着地して空地に足を踏み入れると、目に入った光景に言葉が出なかった。
鬼道で捕われている虚は、白い仮面以外無数の傷があって、まさに虫の息だった。
血塗れの地面と石津の顔に、つい目を逸らしたくなってしまう。
何より、いままで少ししか感じなかったアイツの霊圧は、肌に刺さるみたいだ。
冷たくて、痛い。
だめだ。
いつものアイツじゃない。
ぐっと生唾を呑んで、俺は石津と虚の間に割って入った。
「何してるんですか………黒崎さん」
「お前こそ、何してんだよ石津。」
少しの無言のあと、告げられた言葉。
「見ればわかるじゃないですか。虚退治ですよ。」
至極真っ当なことを言っているような口振りだった。
「それだけで…なんでお前は血塗れなんだ。」
「………斬ったからです。
それに、その虚は絶望を欲しているんです。
だから私が与えてそれで………終わりにするんです。」
ぐっと拳を握った俺は、怒鳴っていた。
「お前までコイツと同じことするのか⁈
死神は……どんなに胸糞悪い虚だったとしても、罪を洗い流す存在なんじゃねぇのかよ‼︎」
キッと吊り上がった瞳と返される怒りの声。
「あの虚は!千春ちゃんのご両親の花束を潰した‼︎
絶望感を与える為だとくだらない理由で‼︎
そんな虚に…救いなんてっ………‼︎」
悔しそうな石津の顔に、俺は何も言えなくなってしまう。
でも、これだけは言わないといけないと思った。
「今の血塗れの顔でお前……千春に会えるのか?」
見開かれた石津の瞳に、俺はそのまま告げる。
気づいてほしい
このままじゃいけない事に
救う側のお前が
傷つける側に回ってしまう その過ちに
「千春はそんな顔のお前見たら、怖がっちまうよ。」