第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
私が石津さんの話を聞いてた後で思うのは、決めかねている何かがあるんだと言うこと。
大事に思う人に自分で作って渡し、レポートを提出する。
この課題は、毎年恒例ながら生徒達は皆よくやっている。
今年のクラスも思い思いに進めているが、彼女のように相談にくることだって少なからずあるのだ。
"誰に"渡したらいいかわからない。
"何を"渡したらいいかわからない。
前者で悩む生徒は、手渡したいと思う"何か"は既に決まっている事が多くて、一緒に話していくうちに、わからなかった"誰か"にたどり着くことがある。
後者は逆で、手渡したい"誰か"は本人の中で決まっている場合があるからか、同じように話して見つけていけることが多い。
ただ彼女ーー石津さんの場合は、どちらも曖昧だった。
渡したい誰かなのか、はたまた、物なのか、はっきりわからないーー決められない。そんな感じ。
でもきっと誰かがわかれば、先に進める。
そんな気がする。
そもそも、悩まないほうが珍しい課題だ。
大切な人に作って手渡す。
ゆっくり悩んで、思いのままに行動してほしくて考えついた物だ。
目の前の石津さんは、申し訳なさそうな顔で視線を落としていて、私はーー大丈夫だと伝えたくて声をかけた。
「悩んでいいんだ。ゆっくり考えよ。」