第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
織姫さんと話しながら始まった家庭科の授業中。
クラスに集う生徒達は、作業に取り掛かる者や百面相をしながら案を考えている者など、みんな思い思いに過ごしていた。
かくゆう私も、いつもの様に織姫さんや石田さんとテーブルを囲みながら、どうしたものかと思案中なのだが。
クラスが始まる前に、先生は言っていた。
「困り事や相談がある人は、遠慮なく声を掛けてくださいね。
それじゃあ、授業を始めます。」
始まった授業が10分程過ぎた現在。
このままでは、何も浮かばない上に時間だけを無駄にしてしまう事は目に見えている。
よし、意見をもらいにいこう。
ちゃんと自分で考えなくてはいけないとは思うけれど。
ゆっくり、先生のいる教卓へと足を向けたのだった。
「来ると思ったよ、石津さん。」
目が合った先生は、ニコっと笑って私を出迎えてくれた。
こちらも先生の言葉に笑顔で返したかったが、申し訳ない気持ちが心にちらつく。
デスクの上には纏まった書類が入っている入れ物が置いてあり、読みかけなのだろう事が伺える。
そしてすでに課題を終えている人がいる事に、内心私は驚いた。
「早い人もいるんですね。」
「ん?………まあ人それぞれだね。パッと決まる子もいるし、石津さんみたいにこうやって相談しに来てくれるのも、先生は大歓迎だよ?」
つい口をついてしまった言葉に、先生はなんでもない事の様に返してくれる。
「いくら考えても何も出ないなら、一緒に話して探してみようね
石津さん」
家庭科の三池先生。
"さっぱりしていて、変わっているけどいい先生だよ!"
織姫さんから聴いていたが、本当だ。
この方はいい先生だと思う。
どうしていいかわからない自分に、駄目だと否定するでもなく、突き放す訳でもない。
一緒に考えてくれる。
その事に、私は安心感をおぼえて。
「……よろしくお願いします」