第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
移動教室の為に廊下を進みながら先生に言われたプリントを受け取り、休み時間は終わりが近付きつつある。
家庭科室までの道のりで後ろから賑やかな声が聞こえて、私は振り返った。
「実穂さん!
よかった追いついた!」
「ごめんなさい織姫さん。職員室に行く用事があって先に出てしまっていました。
「それはいいんだけど………そうだよね、プリント配ってた教科もいくつかあったから。
あ、家庭科の課題は決められた?
私はね、お兄ちゃんに手作りドーナッツをあげることに決めたよ。」
「まだ考え中ですね。なかなか決まらなくて……私には難しそうです。」
ニコニコと嬉しそうに話してくれる織姫さんの言葉に、私は乾いた笑いでそう答えた。
彼女らしい、お兄さん思いで素敵な案だと私は思う。
ボイスレコーダーで聴いたり、昨日の帰りに石田さんにも説明された家庭科の課題。
どんな形でもいいーー大切に思う人に作り手渡す。
そしてレポート提出をすること。
改めて考えるとーー"誰か"に形にして"何か"を贈るなんて、したことがなかったな。
雪子母さんやたくさんの兄妹、ルキアさん達には言葉で感謝を伝えたことは数知れないくらいあるのに……だ。
今だってみなさんにも感謝の気持ちを伝えたい気持ちは十二分にあるのだが、言葉以外の術を使おうと思ってもすぐに考えつかない。
こうゆう時、自分は薄情なのかもしれないと思ってしまう。
「まだ時間はあるんだし、納得するまで考えればいいよ実穂さん。」
「…………え?」
ぼんやりと考えていた事へ織姫さんが言った言葉に、私は思わず顔をあげた。
「気持ちがあるから、そうやって悩むんだし。今日の授業まるっと使えば良いアイデアが浮かぶかもしれないよ。」
彼女の言葉を聞いて、そうするのもアリかもしれないと考え直して。
少し軽くなった心を感じつつ、教室の扉をくぐっていった。