第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
石田さんと話して、だいぶ薄れはしても無くなりはしないもの。
所詮、私がーーおじいちゃんの夢の話を聞いてそうなんじゃないかと思って考えた仮説だ。
英尚おじいちゃんに対して、失礼にならないか傷つけてしまうんじゃないか。
少しの緊張と、不安。
それがまだ私の心には残っていた。
気持ちがぐるぐるして苦しくなる。
でもーー。
人のために考えることは、無駄じゃないと石田さんから教えてもらったはずだ。
私自身も、英尚おじいちゃんのために何かしたいと思っている気持ちがある。
なら、不安や緊張なんてしていられない。
話を聞いてくれるおじいちゃんにだって、失礼だ。
知らずに俯いていた顔を上げて、胸に抱いたノートを差し出す。
「英尚おじいちゃん、私なりに聞いた夢の話から考えた事を書いてみました。少しでも記憶を探す助けになればいいのですが……よかったら読んでみてください。」
ゆっくりと、おじいちゃんの目を見て私は言葉を紡いだ。
「あれから、ずっと此処で………そんな事をしていてくれたのかい?」
「はい。私自身が気になったので、知る事がおじいちゃんの力になればと思いました。」
「……………ありがとう。ちゃんと読ませてもらうよ。」
驚いた顔をしたおじいちゃんは、それでもノートを手にしてくれた。
"ありがとう"の声があんまりにも優しくて、胸が安心感で満たされていくのがわかる。
やって良かったとーーそう思えた。
霊体とはいえ今日一日でかなり心的負荷がかかったおじいちゃんが、体を休めながらもゆっくり読みたいと言ってくれたので、私と石田さんはモネをそばにつける事を条件に、3日後にまた会う事を約束した。
何かあっても私や皆さんが必ず駆けつけますと力説すれば、申し訳なさそうに謝られてしまったがーー帰る時は笑って私達を見送ってくれた。