第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
「そうだ、これを石津さんに渡さなくちゃいけないんだ。」
鞄から引っ張り出したのは、いろんな人に手渡して授業が録音されたボイスレコーダー。
あっと彼女も気づいたらしく、申し訳なさげに受け取る。
「ご迷惑をかけてすいません。
これが無いと、勉強がわからなくて困ってたんです。参考書を読むだけじゃ、私には難しくて……」
恥ずかしそうに笑う石津さんに、大丈夫だと応える。
「僕で良かったらまた勉強の手伝いは出来るよ。
復習にもなるし、石津さんも分かるようになるなら、いいかと思うんだけど……どうかな?」
「えっと、すごく有難い提案ですけど……石田さんの学業のご迷惑になるんじゃ?」
彼女の申し訳なさげに思う視線や言葉を聞いて、僕は安心してほしくて、ふっと笑う。
「さっきの事もそうだけど、本当に大丈夫だよ。
みんなも僕も……出来る事をしたいんだ、小さな事でも。石津さんと同じようにね。」
石津さんは言われて気付いたみたいに目を開いていて。
気恥ずかしい様に小さく呟いた声を耳が拾う。
「………………ありがとうございます。」
それに釣られて、僕も小さく笑った。
さわりと流れた冬風は冷たかったけど、心はほんの少しだけ、あたたかくなった。
「そうだ。
井上さんからの伝言で、"長くなっちゃってごめんね"だって。」
「………えっと……?」
「大丈夫。聴いたら分かるからさ」