第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
それは静かに降る雪が、肌に触れて解けるみたいに。
瞬きの間の冷たさと、じんわりと沁みるあたたかさを感じる言葉だった。
石田さんの紡がれた思いも、ちゃんと耳に届いて確かに心に響いた。
「選んで後悔は……無いけれど。
時間は巻き戻せないけれど。
喪くしたものもたくさんあるけれど。
今からの未来で、争わなくていいように喪わなくていいようにって考えて行きたいと思うよ。
それはきっと、僕や石津さんにとっての大切な人を守ることにも繋がるし。
その………やっぱり、大切な人には笑って穏やかに過ごしていてほしいから。
だから、考えることは無駄なんかじゃないよ。」
確かにあった冷たい事実と、それでも自分じゃなく大事に思う人の為にと思える石田さんのその心根が、優しいとーーあたたかい人なんだと改めて私は感じた。
英尚おじいちゃんに話すことで、嫌な思いをさせてしまうんじゃないかと、そればかりが頭にあったから、自分の中で怖かったんだと思う。
でも。
良い方に向かうための思慮ならば、無駄ではない。
織姫さんもルキアさんも、石田さんも同じ様に言葉にして教えてくれたから。
憂いて重苦しかった自分の胸の中は、軽くなっていくのがわかる。
ただ。
またーー助けてもらってしまった。
未熟だなと思いながらも、有り難さと少しの嬉しさがあって。
見つめていた彼の顔が、ほんの少し恥ずかしそうに緩んでいて……内心ドキリとしたのが悟られていないか不安になった。