第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
「どうして………失うと、傷付けると分かっていても、争いは起こってしまうんでしょうか……っ」
石津さんを見れば、辛さが瞳に滲んでいて。
彼女自身は、可笑しな事を聞いているのは分かりきっていてもーーグッとそれを耐えている様にも見える。
話を聞いて、すぐには言葉を紡ぐことができなかった。
難しいーー正しい答えなんてものはないであろう問いだ。
頭を過ったあの大戦での記憶は重く、ぎしりと響く。
友を裏切り傷つけて、争いの波を加速させたのは………たしかに僕の原因だから。
それでも。
彼女は、石津さんはーー迷いながらも自分の言葉で話してくれたから。
僕も、思っていることを言葉にしなくちゃ。
それが、石津さんの助けに少しでもなれたらいい。
「考えたところでどうにもならない、なんて事は無いよ。
石津さんも、自分で決めて進んだ一歩のその先が、あの大戦だった。
ただ言葉を交わして互いが納得出来るところを探す次元じゃなくて。
痛くて恐くて悲しくて辛くて……自分達が一方的に受けた事を。
その思いを、お前達も味わえばいいんだって。
強く軋む思いが、心の中で先にあってしまったから。
手を携える代わりに、武器を取って。
互いに血走った目をみて。
本来聞かなきゃいけなかった言葉のかわりに、悲鳴や苦悶の声を耳で聞いたんだ。
戦いを選ぶ。
それ以外に道なんてなかった。どう動こうとも、そこに行き着いてしまう状況だったんだよ。
僕には 知りたいことがあったんだ。
その為に 進む事を選んだ。
傷つけるとわかっていて選んだ事に後悔は……無いけれど。
時間は巻き戻せなくて
喪くしたものもたくさんあるけれど。
もし。
罪を犯した僕でも、出来るなら。
今からの未来で、争わなくていいように喪わなくていいようにって考えていきたいと思うよ。
それはきっと、僕や石津さんにとっての大切な人を守ることにも繋がるし。
その………やっぱり、大切に思う人には……笑って穏やかに過ごしていてほしいから。
だからその為になるなら、考えることは無駄なんかじゃないよ。」