第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
特に会話は無くて、静かな時間が流れる。
賑やかだった数分前との違いに、どうしようかと内心焦る。
いつも通りに、何気なく話せばいいはずなのに………私の口は、それでも動いてくれなかった。
「大丈夫かい?……石津さん」
「え?! あ………何がですか?」
「さっき皆に話してくれる時に、その、辛そうに見えたから……。」
不意に呼ばれたことで驚いた私は、思わず石田さんをみながら瞠目してしまった。
表情に出したつもりはなかったはずなのに………どうして、わかってしまうんだろう。
内心頭を抱えていた私だけど、今更違いますとはぐらかす事はもちろん出来なかった。
気遣うように、真っ直ぐに向けられた視線が……私をそうさせたから。
「その……私が考えたところでどうにもならないのは、わかるんです。それでも、いろいろ考えてしまって。」
私の口は、途端に重くなる。
そうだ、これは言っても仕方のないことだ。
だけど………それでも、思ってしまう。
石田さんを見つめながらも、心は締め付けられて、苦しくなる。
「大丈夫、だよ。
時間がかかってもいいよ、石津さんの話をちゃんと僕も聞きたいんだ。」
不思議だと思う。
石田さんの言葉を聞いて、ほんの少しだけどーー話してもいいと思っている自分がいるから。
ゆっくりと瞳を閉じて、心を落ち着ける。
そうして、とつとつと話し始める。
「教科書のどこをみても、めくるページが増えていく中で……争いがありました。知り得ないものでも、たくさんありました。
私自身も……守るため生きるためとはいえ、同じ事を……確かにしました。
知らないうちに、誰かの人生を狂わせ奪っていたのだとしたら……怖く、なって。
どうして………失うと、傷付けると分かっていても、争いは起こってしまうんでしょうか……っ」