第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
「俺が初めて視た地縛霊とは………だいぶ違うな。てか、今は大丈夫なのか?この人」
心配そうに私の隣に寝ているおじいちゃんを見つめる黒崎さんに、私もそっと応える。
「突然の出来事で驚きはしましたが、大丈夫みたいです。
今はとにかく、英尚おじいちゃんの記憶に繋がる手かがりが得られればいいと思ってます。」
「石津さんの立てた推論は、可能性としては一番アリだと私も思うな。………言いにくいけど、確かに昔には、私たちが知らないことでも事実としてあったって聞いた事があるから。」
「それを確かめる術がないのが難しいけどな。」
「本人にありのまま、その推論を直接話してみるしかないんじゃないかな?
それが案外糸口になるかもしれない。
話す側は………口が重くなるのは否めないけどね。
中身のある無しってのは、話を聞く側にとっては重要だろうから。
その人が知りたいと思うなら、そうするべきだ。」
井上さん、茶渡さん、石田さんとそれぞれの意見を聞いた私も、自分なりに答える。
「私も………そう思います。
ただ今はおじいちゃんの様子を見てから、判断しようかなと。」
私の話した推論。
今から遡って半世紀以上前に実際にあった辛く厳しい時代。
世界が人々に………争いを強要させた。
そのために、人はたくさんのものを 失って 喪って 傷付いて 壊れた。
その只中で、英尚おじいちゃんと女性は生きていたのではないか。
『7年間待っていた』と残された女性の言葉で、平和である世界においては、まず待つ必要が無い。
それだけの言葉だ。
当たっている確信もないけれど。
けれど可能性の一端はあるかもしれない。
話してみる価値はあるのだろう。
同時に。
私の心は、ひどく思い悩む。
辛さを孕む記憶だろう。
違ったらーーおじいちゃんはどんな気持ちになるだろうか。
何故そんなことをと、怒るかもしれない。
何より あの人を傷付けてしまうのではと、私が怖いんだ。
きゅっと拳を握って、過った言葉は打ち消す。
今は……みなさんが一緒なんだ。
余計な心配はかけたくはないから。