第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
「おじいちゃん!英尚おじいちゃん……っ!」
一点を見つめたきり、動かなくなったその人が。見開いた瞳と困惑の表情が。
それらが、私を焦らせるには十分だった。
声を掛けても反応は無く、終いには崩れ折れた体を抱きとめ横に寝かせた。
浦原さんに連絡を取ろうと伝令神機をつかんだ時ーー。
微かに感じた、魂魄のゆらぎ。
これは……英尚おじいちゃんからだ。
気になってのぞきこんでみると、彼が静かに涙を流す姿があった。
言い表せない感情が胸に広がった。
おじいちゃん自身が何を視ていたとしても、あの涙には--必ず意味がある。
私まで動揺しては、駄目だ。
落ち着いて、出来ることをするんだ。
握っていた伝令神機は鞄に戻し、おじいちゃんが目を覚ますまで、とりあえずの応急処置をすることにした。
これ以上悪くはならないでと願いながら、ペットボトルの水でハンカチを濡らし、額に置いておく。
そうしてしばらくの後に、私は目覚めたおじいちゃんから、夢の話を聞く事になる。
再びの眠りについた英尚おじいちゃんを、安堵のため息と共に見つめる。
不可思議な夢…………いや。
この場合は、生前の記憶かもしれない。
夢の中の女性は若く、また知らないはずなのに、おじいちゃん自身をその人は知っていて
“7年も待った“
その言葉を残して、夢は醒めた。
「さっぱりだけど、探す糸口にはなるよね。」
鞄を漁ると、目当てのノートと日本史の教科書をつかむ。
考え得る可能性の中の推論だとしても、今は書き出してみなくちゃ。
私はおじいちゃんの容体を傍でみながら、虚の探索を任せていたモネに声をかけられるまでの1時間、ペンを走らせるのであった。