第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
「おはようございます!」
「…………本当に早いな。たまげたよ」
「すいません。でも今日は一日英尚おじいちゃんと過ごす日にしました!」
「ありがとうな。」
いつも通り、鞄には筆記用具やお弁当を入れて--いつもとは違う場所に足を運んでいた。
空気は冷たさを含み、けれど日差しが柔らかい冬晴れの河川敷。
私は、英尚おじいちゃんの願いを知ることを目的としている。
それにはまず、彼の人と成りを知るのが一番だと思うから。
突然の提案にも関わらず、了承してくださったのは有難い。
「それじゃあ聞いていきますから、分かる範囲内で答えてくださいね」
「お手柔らかに頼むよ。」
こうして、朝の時間は過ぎていく。
「待たなきゃいけないって以前言っていましたよね。
大事な事だとも。それは…………人であったり物だと思うんですが、何が浮かびますか?」
「あと、"私も"抜けてるところがあるって言っていましたから、そうゆう人に覚えがあるのかな………と思いまして」
「大事なもの…………人か………」
ぽつりと、けれど自身に問いかけている様な言葉だった。
私には見えない何かを、険しい瞳で凝視している。
私はこの人が出す答えを、待つことにする。
ひとつ。
目を閉じて。
ふたつ。
深呼吸をして。
みっつ。
静かに言葉は紡がれた。
「なあ、実穂さん。
アンタさんには………逢いたいと願う人はいるかい」
私の目をただ真っ直ぐに見つめて、英尚おじいちゃんはつぶやいた。
あまりにも真剣で、少しだけたじろいでしまいそうになる。
けれど、嫌な気は全くない。
「今まで誰にも言った事はないんですが、それでよければ聞いてくださいますか?」
「もちろん。ちゃんと聞くとも。
だから話してくれると嬉しい」
「……わかりました」
するりと抜ける冬風の中、私は英尚おじいちゃんに水筒に詰めた温かい緑茶を手渡して、ゆっくりと話し出した。