第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
嘘をついても意味はない。
それは勿論、理解はしているんだ。
けど、自分が必ず化物になると告げられたら………この人はどう思うだろうか。
普通なら--怖さや動揺が溢れるし、何より驚いて信じられないだろう。
そんな思いなんて、知らなくていいならそれが一番だ。
それでも英尚おじいちゃんは、私の嘘なんてきっと見抜いてしまう。
だから、ちゃんと話そう。
その上で、この人が受け止め願う事を、私も全力で叶えるんだ。
胸に留まる思いはあれど、彼に向き合うために、私はゆっくりと噤んだ口をひらいた。
「このままでいたら………遠くない未来にそうなってしまうでしょう。
だけど、私は出来ることをして、貴方の助けになりたいです。
化物になんてさせない。
貴方が縛られている理由も見出してみせます!だから……………っ」
大丈夫です。
そう、言葉にしようとして--出来なかった。
「ありがとう……貴女は、いい人だなぁ」
優しい言葉・優しい眼差しが、私の耳と目がとらえて。
皺くちゃだけど、暖かい手が安心させるみたいに、ぽんっと置かれた。
どうして。
私や他の死神が見つけるのが遅かったんだ。
悪いのは、私達なのに。
「そんなこと………ないんです。」
「なら、そんな顔はしなくていい筈だ。
それでも貴女は、私のために時間も心も割いてくれてるんだ。
優しくなくて他になんて言えばいいのか分からんよ。」
「見つけてくれるんだろ?こうなってる理由を。」
「はい、必ず………!」
力強く、私は英尚おじいちゃんに頷いた。
そこには月明かりに照らされたニカっと笑う顔があった。