第10章 冬、めぐる狐日和のなかで
小野瀬川大橋の河川敷
この場所に来るのには、目的がある。
「今日はもう、戻るのかい?」
「はい。英尚お爺ちゃんの顔見たくて来たんだけど、元気で何よりです」
「そんな事言って、アンタ一昨日も来てくれたじゃないかい。
いいんだよ別に……」
「私が、会って話をするのが楽しいから来てるんです」
「…………変わった子だねぇ」
「よく言われます」
気恥ずかしい気持ちもあったけれど、ふふっと笑ってみせた。
英尚お爺ちゃん。
出会ったのは、2週間前。
理由はーー地縛霊となっていたが故に見つける事が出来たから。
河川敷での虚退治の後に、朧げにだが気配を感じて、私から声をかけたんだ。
本当に、偶然。
視えない、けれど何かが在ると感じて。
手を伸ばした先には、その人が。
口数は少ないけど、話をするのは嫌いでは無いみたいで。
黒装束の私を見て、驚きつつも今までのことを話してくれた。
左手首から無数に伸びた鎖が、河川敷の地を根の様に貫いていた。
ずっと、長い間、この場所にいたそうだ。
両腕に絡んでいた鎖は片腕だけとなり、ここ数年で今の状態になったと話してくれた。
どうして、この河川敷に縛られているのか忘れてしまったのだと言う。
だけど動いたらいけないのだと、待っている事があるのだと、そう強く思う気持ちだけはある様だ。