第9章 約束したから
丸まった背中を正して、涙を拭いた石津を見送ったのは、少し経ってから。
平謝りを続ける姿を制して、今日は休んだ方がいいと告げた俺に、おずおずと頷いてくれた。
石津が何に悩んでいるかは分からないが、少しでも折り合いがつけばいいと思って、そこでため息が出る。
重い吐息の理由がバイト疲れだけではないのは、俺自身わかってはいるが今はどうすることも出来ない。
ただ、やるせない気持ちになるんだ。
俺は少しでも-ー仲間の、石津の助けになれているのか。
そうなればいいと、自分なりに言葉をかけた。
結果はわかるはずもないが。
自分も早く帰って休むのが吉だと、家路を急ごうと踏み出してーー感じた違和感。
目と鼻の先にある十字路の死角になる場所。
街灯の灯りが柔くみえている。
人が、いる様な予感がしてーー覗きみれば。
「……………………何してるんだ石田」
「……………………茶渡くん」
瞳が揺らいで、固まっている石田を見つけたんだ。
俺もそうだが、石田自身も驚いていて言葉が出てこない様子。
「えと、……………………散歩していたんだ」
「…………22時過ぎてるこんな夜にか?」
「まあ。うん、そんなところだね」
…ム。
明らかに目が泳いでいるし、石田にしては歯切れが悪いところをみると………嘘っぽいな。
しかしなんだって石田は、そんなことを。
動揺している理由がわからない。
だけど俺は。
「…………悩みがあるなら聞くぞ。そんな様子を知って見過ごせないしな。」
眼鏡の奥にある戸惑いの色を滲ませた瞳とぶつかる。
「仲間が困ってるなら、少しでも力になりたいんだ。」
それは、俺の本心だから。
少し前まで感じていた疲労なんて頭から消えて。
俺の言葉を聞いてしばらく無言を貫いた石田は、ゆっくりと口を開いてくれたのだった。