第9章 約束したから
「私は…………迷ってる。
正しい判断が出来ていない。
霊圧の損傷が治り切らない事の焦りも感じてる。
こう、何かが………何かが足らないって思うの」
翳した掌を見つめて、少しずつ言葉を探しながら少し前に立つ実穂は口を開いた。
辿々しくもあったが、主である彼女の心は………いろんな感情で確かに濁っているように感じた。
「焦りに迷い、疑問の種もアリ。
なるほどね………五里霧中ってやつか。
そりゃこっちも霧だらけの世界になる訳だよな。」
真面目な話、晴天なんてとんと見ていないのだ。
主が此方に来たほんの僅かな時間がまさにそれで、あとは濃霧か強風が吹き荒れる日々。
まあ、主の心の内側が荒れているのだから、仕方がないのだが。
でも、俺だってちゃんと聞かないといけない。
主を護るためにも、主の言葉をしっかりと。
例えーー手荒くなったとしても。
「………………で?」
「…………何?」
「惚けんなって。
主が言ったことに嘘はないが、心の中に巣食ってる一番の迷いってヤツは違うんだろ?」
ピクリと反応をして、しかし、実穂は口を閉ざした。
これでは足掛かりを付けねば、事は動かない。
溜息を一つこぼして。
けれど、瞳は真っ直ぐと主へ。
「あの墓誌をみてから、アンタ喪心してるんだ。
…………自分がいったい何者なのか、わからなくなっちまってるのさ」
耐える思いが滲んだ瞳
堅く握られた拳
かち合った主の瞳は、
こっちを確かに見てはいるが………それでも。
重く濁った色を滲ませていて。
そらみろ、もっとひでぇ面だ。
突きつけられた言葉に何も言えないでいる主の様は………解っていても俺の内側を軋ませるには充分だった。