第8章 鈴音の再会
皆さんと分かれて自販機がある道が通りから外れる為、私は挨拶をして帰る……はずだった。
ひとりで帰るのはよくないと言う井上さんと問答を繰り返したが、結局折れて。
少し前を歩く人を、チラッと見やる。
まさか、石田さんが一緒に帰ってくれる事になるとは思わなかった。
「何も買わなかったの?」
「思うものがなくて……帰りに自販機で何か買いますよ。
うさピーチも買います」
「なんだいそれ………?」
「ルキアさん御愛飲の炭酸です。見た目がうさぎ型のペットボトルなんですが、味が飲みやすくてお気に入りみたいですよ。
最近の任務でお疲れだから、少しでも元気になってほしいです」
話しながら歩を進めた私達の前に、目当ての自販機がみえて、購入する。
「私は、四ツ谷サイダー好きなんです」
「僕も炭酸の中なら、割と飲むかな」
再び歩きだす私達の間には、少しだけ冷たい空気がながれた。
冬空の所為だけじゃない……なんていうか、私の心の問題なんだけれど。
信じられないものを見て、まさかそれに関わる人と一緒にいる今の状態。
どうしたらいいかわからない感情に引きずられて、"石田さんの前にいる普段の私"が出てこない。
少しでも普段と様子が違うと分かれば、もしかしたら石田さんは、無理にとは言わなくても話を聞いてくれるのかもしれない。
前を行く彼は、よく周りを…人を見ているから。
いつもの私でいたい。
普通に話して、笑って、そんな私。
でも、整理も制御もついてない心の私は、石田さんの側にいる事が……耐えられそうにない。
だから上手く会話が出来なくて、静かな間が続く。
自分を気にするあまり、見えていなかったんだ。
そうした私の物思いに耽る行動が、石田さんには何かあったんだろうと合点がいくだけの判断材料になっていたって事を。