第8章 鈴音の再会
動揺が顔に出てしまっていた私に、男性は心配そうに声をかけてきた。
「顔色が悪い様に見えるが………」
「もともと貧血持ちなんですよ、私。本当に大丈夫ですよ」
取り繕う為に苦笑いで応えた私に、彼は納得した顔で頷いた。
「…………そうかい、ならいいのだけれど。
今日は、本当にありがとう」
「こちらこそ。
会えて驚きましたけど、お役に立てて良かったです」
「私もだよ。それに、わざわざ私の家族の為に手まで合わせてくれるなんてね。
お嬢さんは、優しい人だ」
「いえ……あのこれ、また落とされていたので……」
男性に手渡したものは、再びの黒いカードケースで、小さな鈴が紐に結ばれて付いている。
荷物鞄の脇に落ちていたそれを見つけて、どう声を掛けたらいいかと考えていた。
「私としたことが……!
妻には抜けているところがあるからと言われていたんだが、またやるとは。申し訳ないっ」
「勝手ながらそれを防ぐ為に、鈴を付けさせてもらいました。そうすれば、無くしそうになっても大丈夫ですよ。
使い込まれた物みたいですし、大事なものなんだろうと思いました。私も、無くしたくないものには同じようにしてるんです」
「………ありがとう。
これは家族からの贈り物だから、ずっと使っていたんだが、私がしっかりしていないせいか、無くしかけることもあってね……お嬢さんの善意を有難く受け取るよ」
懐かしそうに話すその人は、カードケースを大事にポケットにしまうと、優しい音が鳴った。
ちりぃん ちりん
「ああ…………良い音だ。ありがとう」
その言葉を皮切りに、挨拶をして男性とはその場で分かれた。
独り去るその人の背を、私は言葉にし難い思いを胸に秘めながら見送った。