第7章 その日 口火を切る
客間にはぼくと彼女のお父さんの2人きり。
あまり時間はかけないからと、彼はぼくに言ったんだ。
『はじめまして、雨竜くん。いきなり訪ねてきて驚いただろう』
『いえ………あの、今日はどうして?』
言葉通りに、ぼくの心は疑問でいっぱいだった。
何かあるから来たことは理解できても、彼女が亡くなってすぐのこの時にわざわざ、だ。
そんな心中を察したのか、彼女のお父さんは安心させるみたいに、優しい顔でぼくを見ていた。
『難しい顔をしているが、私は雨竜くんに渡す物を届けに来ただけだよ。………これを』
見慣れた青空のデザインの便箋に、丁寧に書いてある名前。
差し出されたのは、紛れもない彼女の書いた手紙だった。
『私は………娘がとても嬉しそうに君の話をしているのを知っているよ。
会えるのが本当に楽しみでしかたないって言っていたから。
あれは、事故だったんだ。
誰も………悪いんじゃないんだよ。
だから、今回のことで………君は君自身を責めたりしないでほしい。
ただ、娘が残した言葉を………っ大事な友達だと言った君には、知ってほしいんだっ』
彼女のお父さんは、笑いながら泣いているみたいに見えた。
責めるでもなく、彼女の話をしてくれた。
大丈夫だからと、言ってくれたけれど。
何も、言葉なんて出なくて。
お父さんの言葉や表情で、わかった事がある。
辛いのは、悲しいのは………ぼくじゃない。
彼女のお父さんやご家族が、いちばんそれを抱えていて潰れそうに見える。
涙は 流さない
ぼくには それが出来る訳はないんだ
ぐっと拳を握って、顔を上げる。
それでも、手紙をもらえる事が、純粋に嬉しかった。
彼女の心に、ふれられるから。
受け取った手紙をそっと胸に抱いて、ぼくは掠れ声になりながらもお礼を伝えた。
『………ありがとうございます。大事に読みます』