第5章 サイドストーリー *ふたつめの贈り物*
「名前をもらえて本当に嬉しくて。
ちゃんと見てくれる人なんだって、知れたから。だから、怪我をした事は後悔してません。実穂様が危険な目にあっても、同じように御守りします!」
はにかみながらも、力強く言葉にした私に、実穂様は、確かに笑ってくれた。
でもどことなく………悲しそうな色が滲んでいる様に見えた。
暫くして、ぽつりと呟いた実穂様は、少し雰囲気が違くて。
なんて言うか、悩みながら話してくれている様に感じた。
「そんな風に思ってくれていたのは知らなかったから、モネの気持ちを聞けてよかった。
名前も、大事にしてくれてありがとう。
でも私は、モネに怪我をして欲しくないし、今回みたいな無茶もやめて欲しいと思ってるの」
瞬間、何を言われたのか分からなくて。
辛うじて動いた口は、まごつく。
「………ど、どうしてですか?私はただ、自分で決めた事をしただけですよ?」
「その気持ちは、勿論わかってる。
でも私は死神。守られなくちゃならない程弱くはない。そして本来なら、魂魄も現世の人も護る存在。
井上さんが危険に晒されても防ぐ手立てを講じるべきだったし、モネに怪我をさせるなんて有り得ない事なの。………私の力不足だよ」
悔しそうに、絞り出した声。
硬く握られた拳が視界に入る。
「私は何と言われても………自分の意志を通します!」
「あっ!モネどこにっ………」
カシャン‼︎
「………あ」
「………」
突然の破裂音の先には、一輪挿しが床に落ちて破れていた。
この場に居たくなくて。
それ以上に………壊れた華や、あの人の辛そうな顔を見ていられなくて。
私は部屋から、逃げ出した。
静けさが部屋を包むなか、水の滴る音がする。
モネが窓から出て行く時の勢いで、一輪挿しは倒れて破れてしまったのだ。
片付けようと手を伸ばすが、指先に痛みを感じて引っ込める。
硝子の破片で傷ついた指を見る。
紅い血が小さな涙を流していた。
「………私は何をしてるんだ」
やるせない思いを感じて、胸が重くなる。
窓へと視線を向けると、夕暮れの中に冷たい風が吹き始めていた。