第4章 過ぎゆく秋空の日々
昇降口で忘れ物をした石津さんを待っていると、暫くして慌てて戻ってくる。
息を切らしていて、気にしなくていいと言ったのだが、「待たせているから当たり前です」と返されてしまった。
本当に真面目すぎる人だと思う。
ふっと笑いながらそんなことを考えていた。
「石田さん、これをどうぞ」
「………缶コーヒー?」
差し出されたのは、ブラックのコーヒーだった。
彼女の顔とそれを交互に見て、それが今日の勉強の事を指しているのだと合点がいく。
「冊子までくれて、勉強も見てくださって。飲み物ひとつじゃ足りないと思ったんですけど………何かお礼がしたくて」
「大したことじゃないよ。僕が出来る事はサポートするって言ったんだしね」
「これは、お礼の内のひとつです。足りない分は、ちゃんと追試の結果で返しますから!」
譲らない瞳で僕を見ていた彼女の言葉に、つい納得させられてしまう。
「そこまで言ってくれるのなら、貰うよ。
ありがとう石津さん」
「………はい」
手渡されたコーヒーは季節の変わり目らしくホットのもので。
ほんのりと手を温めてくれる。
「忘れ物は見つかった?」
「はい、机の奥に入ってました」
井上さんから借りたポータブルプレイヤーを、照れた様に鞄に仕舞う彼女の姿を見て、クスリと笑う。
不意によぎる。
ああ、僕は彼女といて笑えているんだーーと。
校門で分かれて、僕はなんとなく彼女の後ろ姿を見送る事にした。
片耳にイヤホンを挿して歩く小さな後ろ姿に、ぽつりと僕は溢した。
「………頑張れ、石津さん」
やがて視界から彼女の姿が消えて、僕はようやく歩き出す。
手の中にあるコーヒーはまだ暖かくて。
フルタブを開けて飲めば、ほのかに苦味が胸に広がる。
いつも家で淹れてるコーヒーより美味しく感じたのはきっと、気のせいではないと………思う。