第4章 過ぎゆく秋空の日々
「そっちは片がついたかな?」
「なんとかなりそうだぜ。石田は?」
石田さんが私たち見て呟いた。
が、難しい顔をしている。
「数学は基礎が大事だからね。
それが無いと応用問題なんて解けないさ。
石津さんの場合は仕方ないとはいえ、2年半分の勉強が抜けてるからなかなか厳しいだろうね」
「無理ってことか?」
怪訝そうな黒崎さんの言葉に反して、石田さんはゆっくりと眼鏡を直しながら答えた。
直した眼鏡が、心なしかキラリと光った様な感じがしたのは、気のせいだろうか………
「まさか。僕を誰だと思ってるんだい?
厳しいとは言ったが、無理なんて言ってないさ」
そこまで言うと、石田さんは私に目線を向けた。
「これは石津さんの根気とやる気の問題だ。かなりキツイ事だよ。足らない勉強量を補って、さらに追試の勉強をあと5日でやるんだ」
強い瞳だった。
やりきれるのか、否か。
それを推し量ろうとしている様だった。
「死神の仕事は仕方ないにしても、それ以外はすべての時間をこの追試の為に費やすんだ。石津さんに出来るかい?」
「元は私が招いた失態です。
何がなんでもやってみせます。
こうやって協力してくださるみなさんや、自分の死神としての仕事を果たす為に、やり遂げてみせます!」
ぐっと膝に置いた拳を握って、みなぎる気持ちを胸に答えた。
「………わかった。僕もサポートするよ。
ただし、生半可では無いことは覚悟して」
「はい、よろしくお願いします!」
私は石田さんに、深々と一礼した。
またひとつ、私のやるべきことが定まった。
「すんごい話だけど、内容が赤点の追試対策ってのが切ねーな」
「………………それは言ったら駄目だよ、黒崎くんっ!」
肩肘ついてボーッとしている黒崎さんと、焦った様に小声で答える井上さんの話なんて、私は知らない。