第4章 過ぎゆく秋空の日々
石田さんの、ほんのりと赤い耳が目に映る。
これは、言うべきなのか。
いやでも。
自分が指摘されたら絶対恥ずかしい。
言わないが吉、だな。
そろりと石田さんに視線をむけながら、そんなことを私は考えていた。
おほんっと咳をした石田さんは徐に、私に話しかけた。
「歌なら君だって、上手かったじゃないか」
「砕蜂隊長と練習したのが、こんな形で活かせるとは驚きでしたけど」
渇いた笑いを溢して、呟いた。
また、途切れてしまった会話。
どうしようかな….と思ってコップに口をつけて冷たいお茶をひと口飲む。
知らなくて当然のみなさんの思い出。
"自分だけが知らない事がある''ということに寂しいと思う気持ちも、羨ましいと思う気持ちも、石田さんに悟られたくなかった。
もしそうなったら、すごく恥ずかしいと私は思う。
どうしてかは、わからないけれど。
だから何か次の話題をと、考えていた私の耳に声が響いた。
「何かあった?石津さん」
顔を向けると、石田さんの瞳とぶつかる。
気遣わしげな色が滲んだ瞳だった。