第1章 始まる音は聞こえない
「朽木副隊長、遅くなりました!」
「構わぬ。
それより、先程話した者達だ。
挨拶しておけ。」
「十三番隊第三席 石津実穂です。
本日から空座町担当に任命されました。
よろしくお願いします。」
勢いよく挨拶をした彼女に、
僕は目が釘付けになった。
ドクンと心臓の音が身体中に響いた。
驚いたなんてものじゃなかった。
緩く束ねて肩に流した長い黒髪。
明るい琥珀色の瞳。
小柄な背をピシッと正した姿。
黒崎に肘鉄を喰らうまで気づかなかった。
目の前に彼女がいたことを。
「……石田雨竜です。」
漸く絞り出した自分の声が、
引きつっていやしないかと不安になった。
彼女に自分の動揺を悟らせたくなくて、
眼鏡を直す素振りをした。
何より、その顔が その名が
僕にとっては信じられないものだったから。