第1章 始まる音は聞こえない
寝ていた意識がゆっくりと
覚醒していくのを感じて目を開いた。
暗い自室の天井。
携帯のディスプレイの光が目に染みるが
時間を確認する。
a.m.2:47
二度寝するには早い方がいいが、
どうにも頭が冴えてしまったようだ。
久しぶりの夢をみた。
内容なんて目が覚めたときには忘れたけど
出てきた人は、はっきりと覚えている。
石津実穂
肩につく位の長さの黒髪
幼い顔立ちで明るい琥珀色の瞳
あの頃は背が高くて羨ましいと思っていた。
ニックネームはしーちゃん。
僕の小学生の頃からの友達“だった”女の子
10年前に亡くなっている、女の子
そして、頭に浮かんだのは
担当死神である同じ名前の彼女だった。
他人の空似だと片づけてしまうには、
あまりにも似過ぎている。
彼女は僕の知る、幼き日の彼女なんだろうか。
いや。
考えるのはおかしい。
同じである訳がないんだ。
絶対にちがう。
降り出した雨が窓を叩く音は
僕の気持ちとは逆に軽やかだった。