第32章 約束
聴き慣れたメジャーの和音に、7thを一音加える。とたんに その音は、心地よい広がりと深みを持った。
どこか切なさを漂わせた和音だが、ローには もはや聴き慣れた和音。それは自分たちの故郷であるフレバンスを想像させる曲の前奏だった。
雪が速度を落とした。
今までふたりの身体に容赦なく吹き付けていたのに、時が止まったように風がやむ。
──── ああ、
琴線(きんせん)に触れる、とは この事か
懐かしさで目頭が熱くなるほどメロディアスな旋律が、風の音に邪魔されることなく直接ローの耳に届いた。
それは以前聴いた時と少し異なることに気づく。力強い印象を含んでいた。
アルコは迷いなく、旋律を弾(はじ)く。
その曲は、完成していた。
今までのアドリブのような、『アソビ』のような、不確定でふわふわとしていた部分はなく、作り込まれている。強弱の“弱”でさえ、弱々しい印象はなく、優しさと丁寧さが込められていた。
音楽のことは、よくわからない。
そう考えていたローでさえ、その曲の進化と完成を感じた。いや、2年間 聴き続けてきたローだからこそ、それを感じることができたのだろう。
アルコが初めて彼の船に乗船した時に、艦内に響かせた和音。
それは、今でもベースに鳴り続けている。
そこに乗せられた ふたりの旋律
2年間の歳月
『仲間』と呼ぶには、少し違う関係
──── ふたりだけの“約束”
日が射した。
島の半分は灼熱、もう半分は吹雪という異常気象が続くこの島に、日が射した。
花びらのようにゆっくりと落ちる雪の中、日射しのスポットライトが、演奏するアルコの後ろ姿を照らす。
ローは覚悟を決めた。
命を賭して
“新世界”にいどむ覚悟を。
目を開けたまま、故郷を思った。
廃墟と化した故郷で、アルコがこの曲を演奏する姿を思った。
その時、おれは ──────
──────── その時、私は