第32章 約束
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「前回と同じ感じの治療だと、あと2回か3回……だったよね」
ふたりはR棟 最上階の部屋に戻ってきた。当然、移動はローの能力を使ったので、誰にも会うことはなかった。
アルコの確認のような質問に対して、ローは小さく頷(うなず)いた。
治療のための身支度を整え、ベッドに戻ったアルコは、落ち着いた声で言った。
「じゃあ、それで大丈夫。お願いします」
ローはアルコの手を取った。
素手のまま外で演奏を終えた冷たいその手をあたためる名目で、ローは頬(ほほ)か唇を寄せようとした。しかし、続くアルコの言葉に、その行動は阻止された。
「──── そして、眠らせて欲しい」
前回の治療の痛みに、たまらずの提案だった。
アルコは名案だと思ったのに、ローはそれに対して言葉を失った。
「だめ?」
「……」
返事はない。
自分の長期間睡眠の体質を、うまく利用できると思ったのに。ローはアルコの手を握ったまま、固まっている。
沈黙の後、向けられた質問は、詰問に近いものだった。
「起きられる保証はあるのか」
「……」
アルコは唇を突き出してむぅっとする。信用されていない気がしたからだ。
しかしそれも、しょうがないことだった。
『お前の想いには 応えられない』
“あの時”起きられなかった理由を、あなたは忘れてしまったんだから
あの日の出来事は、あの1日まるごと忘れてしまったんだから
「起きられるよ。……“あの時”とは違うから」
処理したから
ちゃんと、自分の気持ちを
あきらめて
自分の気持ちに折り合いつけたから
「……根拠はあるのか」
「ちゃんと……理解した。心をコントロールした」
優しくしてくれるのも
抱いてくれるのも
“医者だから”
それでも私は
あなたが“好きだから”
私にはあなたとの“約束”があるから
──── それで十分だから