第32章 約束
「そ、んな…、悲しいこと言わないで」
「悲しくはない」
今にも泣き出しそうな瞳を向けられても、ローは顔色を変えなかった。
しかしこれ以上 彼女を直視することは、ためらわれた。視線を外して、自身もコートに口もとを埋(うず)める。
そうでもしないと
うっかり手を伸ばして
強く抱き締めて
その優しさに甘えてしまうから
受け入れて欲しいと望んでしまうから
きっと お前も“それ”を望んでいるのが
痛いほどに わかるから
「……いずれわかる」
──── 人は、死ぬ
どんなに志(こころざ)し高かろうと
どんな約束をしようと
どんなに愛を残そうと
『おれは大丈夫……!』
『…殺されやしねェよ』
『となり町で落ち合おう』
『愛してるぜ!!』
人は、死ぬ
──── 死ぬ時は、死ぬんだ
アルコは冷たい黒髪を かきあげるように、耳にかけてまとめた。
「じゃあ……、私が死んだら ───」
「アルコは死なせない」
意地すら感じる強い口調で、アルコの言葉は はね返された。
「…ズルい」
「ズルくねェ。……おれはお前の医者なんだ。患者が死ぬこと想定する医者がいるか」
言い捨てるような冷たい言い方とは対照的な手つきで、ローはアルコの頬(ほほ)に触れた。
白いアザのない頬に。
以前、そこにあった珀鉛病の白いアザは、ローが能力を使った治療によって消し去った。
“彼”が命懸けで与えてくれた能力で。
それはまるで
自分がアルコに与えた『自由への翼』
おれがアルコの呪縛をといて
『自由』にしてやる
本当の意味で、彼女を『自由』にすること
それが出来るのは自分だけ
それが、“コラさん”に生かされたおれが出来る ─── いや、おれにしか出来ない、“彼の”功績