第32章 約束
あたりを見渡せるところまで登り、アルコは足もとの雪をすくった。雪を丸めて固めてみる。しかし、手袋の中で雪は固まらず、ほとんどが さらさらと こぼれていった。
雪を払うと、ぽんぽん、と手袋の手は いい音をたてた。それでも手袋には、たくさんの雪がくっついたままだった。それを目の前にかざすと さらに手の上に雪が降ってきて、手袋の上の雪と同化した。
「キレイだね」
そう言ってローを振り返ってから、アルコは灰色の空を見上げた。
音もなく次々と降り注ぐ雪は近くなるほどに大きくなり、その迫力には息を飲まされた。こんなにも存在感のある粒が たくさん降ってくるのに、音がないことが本当に不思議だった。
手袋に乗った雪は、よく見ればトゲトゲした形があった。アルコはそれに、舌先で触れて冷たさを味わった。
雪をみたことがない訳じゃない。この島でも1ヶ月以上、ずっと毎日 窓からみていた。
それでも、やはりみているだけとは違う。みているだけでは、ただの白。本当にそこにあるものなのかすら疑いそうになってしまう、ただの“記号”のようなものだ。
聴いて、観て、触って、味わって、感じることは、アルコにとって重要なことだった。
ローが続いて登ってきて、アルコの隣に並んだ。
彼は瓦礫(がれき)の隙間(すきま)からみえる建物に目を向けていた。アルコもつられてそちらに視線を向ける。
白い景色の向こうにみえるのが、先ほどまでいた建物だった。そこは、きっとこの島に残された“唯一の研究所”。
こちらは建物の裏手らしい。アルコが部屋の中から想像していたよりも 、その建物は ずっと大きかった。