第32章 約束
「覚えているか」
「何を?」
鼻頭を赤らめたアルコが、振り返った。寒さで、笑顔が笑顔のまま固まっている。初めて雪をみて はしゃぐ子犬のように、その瞳は輝いていた。
フレバンスにも、雪は降っただろう
フレバンスも、十分に白かっただろう
それに……
『キレイだね』
うっとりとした その言葉を聞くのは、初めてではない。
“あの時”は、シャボン玉の夜景よりもキレイなものが目の前にあった。そして、今もそれは変わらない。いや、“あの時”以上に輝いてみえる。たとえ“あの時”のように着飾っていなくても。
『キレイ ─── だ。アルコが、キレイだ』
珀鉛病の白いアザを隠せるドレスを贈った。
それに袖を通した時、アルコは一層 輝いた。『自信』を身に まとったのだろう。それは彼女が心から“彼女らしく”いられる服装だった。
両脚のアザを消し去った。
あんなにも嬉しそうに両脚のアザが消えたことを喜んでいた。また“彼女らしさ”に ──── “自由”に一歩近づいた。
しかし ────
もし、言わせてもらえるならば おれにはそんなことはどうだっていい。
アルコは、キレイだ。
そのままで、十分に。
たとえ彼女が病気であろうとも。
そのせいで、身体だけでなく心まで蝕(むしば)まれていようとも。
その身体に“アザ”が ──── 心に“傷”や“影”があろうが、なかろうが。
シャボン玉よりも、雪よりも。
キレイで儚(はかな)くて、強くて脆(もろ)くて、絶対に失いたくないもの ────
「“約束” ──── シャボンディ諸島での“約束”を覚えているか」
ローのその言葉で、アルコは凍りついていた笑顔のまま目だけで驚いた。それから口元に手袋の手を当てて、手と顔をあたためる仕草をしながら、優しく目を伏せる。とても いとおしい表情だった。
「観覧車での“約束”。……もちろん、覚えてる」
『もし、すべてが終わったら………
いつか おれを、フレバンスに連れていってくれ』
『行く』
危険は ないはずだ。
直接やりあうわけじゃない。ドフラミンゴを“四皇”カイドウにぶつける。そのための“策”であり、そのための“鍵”。
暗躍に徹すれば、おれもアルコにも、危険はないはずだ。
しかし ─────