第32章 約束
「支度をしろ……外は寒い」
ローのその言葉に、アルコは表情を一変させた。
外に出られる。
目が覚めたらここにいたので、アルコは この部屋しか知らない。ここがどんな島で、他に誰がいて、どんな暮らしをしているのかを一切知らない。
それは不安を通り越して、恐怖だった。
この島のすべてを把握したい訳じゃない。そんなことに意味はないし、今は興味もない。
ただ、感じたいのだ。
“世界”は、“この部屋だけ”ではないということを。
アルコは、ミストリア島で仕立てたコートを羽織り、竪琴を担いだ。コートのポケットから手袋を取り出した。
ミトン型の手袋は、アルコの手には少し大きすぎた。しかしコートのボタンも十分に大きいので、手袋ごしに操れないことはない。たどたどしい手つきでコートのボタンをしっかりと閉じて、襟(えり)にあしらわれたファーに口もとを埋(うず)め、ローを見上げる。
「ありがとう」
そう言い終わる前に、フードをかぶせられた。
なんだか自分のことをみないようにしているみたいで、可笑(おか)しかった。
「……歩いて出たい」
ローが窓辺で能力を広げているので、そう声をかけた。
「勘弁してくれ」
困ったように笑うローに、アルコは歩み寄って身を寄せた。
「わかった。…寒いんでしょ? 外は」
ローの腰に、手袋をはめたままの手で触れた。
本当は、抱きつきたいだけ。
たくさんの衣服ごしにでもいいから、少しでも彼の存在を感じたいだけ。
コートの中に、かたい身体の芯をみつけた。
顔が赤くなりそうだったので、下を向いたまま、ぎこちなく手を回した。幸い、フードで視界は狭い。
「寒いぞ。……もっと くっつけ」
幻聴じゃなければ、そんな言葉が降ってきたと思うので、アルコは抱きつく腕に遠慮なく力を込めた。