第32章 約束
ローは大きな ため息をついた。
思えば、アルコが眠っている間に、この島に上陸した。シーザーとの交渉を終えて、この部屋に運び込んだのが数ヶ月前。
『アルコは この部屋から出さない』
彼女が目覚めた時に、そう言い渡した。不自由を強いているのは重々承知だ。
治療のためだけではない。この島の危険性にアルコを近づける訳にはいかない。
関わらせたくない。
会わせたくない。
この研究所に潜む、危険な秘密に。
それにまつわる人物達に。
実際、ローにも どこから切り込むべきか考えあぐねている状態だ。ここから先に事(こと)を進めるならば、一気に行くしかない。
そうなれば、きっと後戻りは出来ない。
好機を見極め、一気に“深部”まで たどり着かなければ。
“SAD”の製造をしているであろう、その“最深部”まで。
しかしその時は、きっとすべてを破壊して、“次”へと駒(コマ)を進めているハズだろう。
そこに彼女を関わらせるのは、得策ではない。戦力になることは確かだが、治療も終えていない段階では ────
「お願い。一度でいいから。ほんの少しだけでも いいから」
アルコはベッドに座ったまま、白い窓に触れた。
外は相変わらずの吹雪。その指先は、外の冷たさに触れた。
この部屋に閉じ込めたままの療養は気の毒ではあるが、この大雪の中をウロウロさせる訳にはいかない。
しかし、普段は ほとんどワガママを言うことがない彼女が言い出した『願望』を、理由も聞かずに無下にするのも気が引けた。
「……外で、なにがしたいんだ」
アルコは大きく息を吸ってから、ローのその問いに答えた。
「白い世界を、歩きたい。白さと、冷たさと、美しさに、ふれたい。私が生きる ──── 生きたいと思う、外の世界を感じたい」
「───!」
『目に入るものを、全部 壊したい』
それはまるで、『そう』ならないために
“絶望”ではなく、“希望”を知るために
死を連想させるツラい治療に立ち向かうために ────