第32章 約束
──── 1ヶ月後
パンクハザード島
研究所
R棟 最上階
踏みしめる度(たび)に感じていた痛みが、完全に消えた。
それをローに伝えると、彼は顔色を変えることなく「みせろ」と言うので、アルコはベッドの上でスリップドレスを たくしあげた。
ゆっくりと包帯が外される。
そこにアザは残っていなかった。ひとつも。
アルコは、患部を確認しているローよりも真剣に、自分の脚を見つめていた。しかし「反対」と言う彼の言葉とともに身体を転(ころ)がされ、仕方なく脚を眺めることを中断した。
尻までみえるほどに捲(めく)り上げられた状態のまま、うつ伏せで脚をみせた。
時々、ふくらはぎや内もも触られる。“そういう行為”ではない、と頭でわかっていても、脚の間が熱っぽく むずむずした。
うつ伏せのまま、お尻を少し突き出すようにして振り返ってみる。しかし彼は真剣な顔をして脚を診ているので、アルコは その顔を盗み見るだけに留(とど)めた。
触れられる感覚に集中する。触れられるたびに頬(ほほ)がゆるむのを、手のひらで覆(おお)って隠した。
「今回の治療の範囲と量を基準にして……」
見立てが終わったらしいので、アルコは仰向けになって上半身を起こした。
ローは難しい顔のまま、ファイルに なにかを書き込んだ。時折 書く手を止めて、小瓶に入った珀鉛の粉を目線の先に掲げて振っている。計算をしているようなので、話しかけるのはやめた。
アルコは片膝を折り、再び自分の脚をしげしげと見つめた。アザひとつない脚を、感慨深く撫(な)でる。
それに気づいたローが書面から視線を外し、顔をあげた。
「そんなに嬉しいか」
「うん、嬉しい。
──── ありがとう、ロー」
ローはどこか皮肉を込めて言ったのに、アルコからは、はにかみながらも真っ直ぐな礼が返ってきた。
その表情を直視してしまったローは、奥歯を噛みしめ、眉間にシワを寄せる。
アルコは両足を揃えて伸ばし、前屈しながら脚に触れ続けている。重く落ちた髪を自分で耳にかけた。
そんなアルコに悟られることなく、ローは紅潮を堪(こら)えた。