第32章 約束
竪琴を弾くことを想像したので、アルコの頭の中には音楽が流れ始めた。それが無意識に小さく断片的な鼻歌として漏れる。
アルコは、ふとローの雰囲気が緩んだのを察した。それでようやく自分が声を出して歌っていたのだと気づいた。
鼻歌を曖昧に ごまかしながら、アルコは“白い窓”をみる。
窓の外は相変わらず、寒さが厳しそうだ。生命を脅かす勢いの凍(い)てつく空気に反して、この部屋の中は本当にあたたかく穏やかで緊張感がなく、力を抜いて過ごせる場所だった。
この部屋にいると、外の寒さを実感することが出来ない。ただ白いだけの外の世界との対比によって、この部屋は一層 現実的に感じられた。守られているという安心感もあった。
同時に少し物足りなさを感じるのは、ずいぶん回復してきた証拠だ。
「!!」
新聞をめくるアルコの手が、鼻歌と共に止まる。
「ルフィ達が、動き出した」
食い入るように記事に近づいて そう言った時、ローはすでに本を閉じて悪巧みしている時の様相をみせていた。
なるほど
ローはこれを待っていたというのか
私が この記事に反応するのを
待っていたとばかりにローが口を開く。それは一見 世間話のように聞こえるが、アルコにはその真意がすぐにわかった。ローの言葉の裏側にあるのは「彼は何を大事に思うか」「行動パターンと理念」や「その目的と推測」 ────
それは、暗にルフィの弱点をアルコに尋ねていた。
「彼らを…、どうするつもり?」
「決まってるだろ。……利用できるものは利用する」
「……」
ローのその返事に、アルコは仏頂面で押し黙った。しかしアルコに睨(にら)まれても彼は怯(ひる)むことなく、むしろ開き直るようにソファに身を預けた。
「麦わら屋の味方すんのか」
しばらくの沈黙の後(のち)、アルコは満面の笑みで返答した。
「……うん、するね」
その清々しい返事を聞いて、ローは悪さを含んだ顔で笑い返した。